KANZOに聴け

内村鑑三翁が生きていたら何を考え何を語るのだろう…

トランプという代償解毒剤…

f:id:KANZO-KUN:20190525104317j:plain

どうしてこんなヤツ”such a terrible guy”をアメリカ国民は大統領に選んだのか――。

ふと大統領の就任演説を聞くために、全米からバスを駆って何日もかけて集まる何十万ものアメリカ国民の群れを思い起こした。トランプに限らずオバマのときもそうだった。これはワタシには信じがたい光景だ。任意で就任演説を聞きに行くにせよ、党支部やその他の団体による動員によってワシントンに馳せ参じるにせよ、ワタシにはその熱狂が理解できない。こうしたアメリカ人の精神の底にある”精神の塊り”とはどのようなものなのか。

バンディ・リー本にはその疑問を説く論考が寄せられている。

 

「トランプほどアメリカ人の集合的精神を魅了した人物を我々は知らない。彼の特性(富、権力、有名人としての地位、性急すぎる反応)が多くのアメリカ人の集合的精神と強く共鳴したことは疑いない。」(トーマス・シンガー:バンディ・リー本、p.264) なるほどアメリカ人の集合的精神とトランプは”共鳴”したのか。

 

ではアメリカ人の集合的精神とは何か。無学なワタシには独自の解釈はできないので、バンディ・リー本から引用させていただく。

「猛烈な引力と反発力を持つ強力な磁石のようなトランプとは何者なのか? トランプはアメリカの文化やナルシシズムの最終産物なのか? 絶え間ない刺激と享楽に溺れた無思慮な消費主義の文化の中にいる我々アメリカ人が崇拝する神を人格化したのがトランプなのか? ……クリストファー・ヘッジスは……次のように述べている。”現代は、文章や写真や疑似ドラマによって伝えられる、いわばイメージベースの文化である。そこではスキャンダル、ハリケーン、不慮の死、鉄道事故などが、コンピュータ・スクリーンやテレビで映える。外交、労働組合交渉、複雑な緊急援助政策などは、目に見える刺激的なイメージにならない。映えない。…現実とは複雑なものである。現実とは見た目には退屈なものである。人々にとって、現実の複雑さを扱うのは難しく、扱いたいという気持ちにもなりにくい。……人々は絶え間なく繰り返される言語の牢獄につながれている。テロとの戦争、人命尊重、変革。我々は日々そうした言葉を連続的に供給されている。そしてこうした単純化された言葉の嵐の中で、あらゆる複雑な思考や曖昧さや自己批判は消滅する。”」

 

「有名人崇拝の文化は我々から道徳を奪う。見た目や有用性や物事を成功させる能力にしか価値を認めなくなる。…名声と富が得られれば、それを得たということ自体が正義になる。それ自体が道徳的ということになる。」(トーマス・シンガー:バンディ・リー本、p.266~)

シンガー氏はアメリカで著名なユング精神分析医である。

 

アメリカの集団的「自己」(集団的スピリット)は、300年以上にわたる進歩、成功、成果、富、創意工夫の上に構築されている。そこにはほとんど無限の機会と幸運も伴っていた。…アメリカ人の集団的精神は、不確実な未来を前にして深刻な自己不信感に襲われている。トランプという人間の誇大妄想、傲慢は、そんなアメリカ人の集団精神を代償する解毒剤になっている可能性が非常に高い。栄光の過去を懐かしむアメリカ人の集団精神は、「私の国を取り戻したい」という言葉に端的に示されている。」(トーマス・シンガー:バンディ・リー本、p.270~) 

 

アメリカ人は昨今自信を失いつつある、自己不信に襲われているわけだ。あのAmerican Dreamの底にあったのは、誰でもがサクセスストーリーの主役になれるのだという希望だった。しかし何もかもグローバル経済の中で動いているから、自ずからアメリカだけの簡単なサクセスストーリーが描けなくなってきている。歴史的主要産業であった鉄鋼もダメ、車もダメ、もはやPAN-AMERICANのプライドは傷つきっぱなし。

ヨーロッパは時代を予見してEUという大きな極となり、中国の台頭は目覚ましく、アジア諸国の発展は目を見張るものがある。こうした国々はこぞってアメリカの脅威になってきた。軍産国家としては軍備に関わる戦闘機戦車ミサイル兵器砲弾を大量に売り捌く必要があったにも関わらず、ホイホイと買ってくれたのはアホな日本の内閣総理大臣くらい。仕方ない、狭い地球じゃ商売にならないから、宇宙基地でも作ろうかと、本気でトランプや取り巻きは考えている。

アメリカは既に世界に冠たる経済大国の極でなくなりつつある。これは歴史の必然であったのだが、アメリカ人の精神は相変わらずPAN-AMERICANのプライドという夢を追っていた。田舎のダサい街を一人で飛び出してニューヨークに行く。そこには精励恪勤すればあらゆるチャンスが巡ってきた…それがアメリカではとっくに喪われていたのにもかかわらず。でも、でも、何か私の夢を叶えてくれる何かがあるんじゃないか、しかしクリントンの時代もオバマの時代にも何も与えてはくれなかった。そこにトランプが華々しくデビュー、一度あの男に任せてはどうか、何かやってくれるんじゃないか……というわけで、その鬱積したアメリカ人の精神は解毒されたのかもしれない、シンガー氏はそう分析しているのだ。アメリカ(人)の集団的精神がトランプを大統領に選出する底流にあったというわけだ。 (トランプの項まだ続くよ!)