KANZOに聴け

内村鑑三翁が生きていたら何を考え何を語るのだろう…

精神医学者たちが下した恐ろしい「診断」

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 天眼鏡を片手に1冊の本を読んだ。『バンディ・リー編、村松太郎訳:ドナルド・トランプの危険な兆候;精神科医たちは敢えて告発する(The Dangerous Case of Donald Trump).』(岩波書店、2018)だ。(以下バンディ・リー本とする)。

 

アメリカには「ゴールドウォータールール」というものがあるという。クライエント・患者に直接面談することなく診断を下してはならないとするアメリカ精神医学会の規範というか倫理規定で、これには批判も多いらしい。このルールやタブーを越えて、アメリカの政治経済社会のみならず国際社会に「危険」を及ぼすことを防ぐために、編者らの声に呼応した全米の精神科医・心理学者らが27の論考を寄せたのがこの本(日本語訳では25論考)。バンディ・リー本を読了していくつかの(論者に共通する)キーワードを拾ってみた。全米の優れた勇敢な精神医学者たちによればトランプとはこのような人物だ。

 

「他者への共感性の欠如」「自己反省の欠如」「嘘と不正を繰り返す」「現実の喪失」「激怒反応と衝動性」「刹那的快楽主義」「情緒発達の停止」「人格否定」「嘘つき」「パラノイア」「人種差別主義者」「自己肥大」「悪性ナルシシズム人格」「反社会性パーソナリティ障害」「いじめ人格(身体へのいじめ、言葉によるいじめ、偏見的いじめ、情動的いじめ、サイバーいじめ)」「責任感の欠如・他責者」「認知機能障がい」「社会感情の欠如」「被害者の人格否定」「特権意識」「欺瞞に充ちている」「暴君」「社会病質」「DSM-5(※アメリカ精神医学会による精神障がいの診断と統計マニュアル)の反社会性パーソナリティ障害」「精神病質(サイコパス)」……彼らが診断を下したトランプの精神病質に関する診断名はまだまだ登場するが、この辺にしておく。

 

トランプという人間には全く良いところがないじゃないか!驚くべきことだ。一体トランプとは何者なのか。このような明らかな精神病質の人間がなぜ大国アメリカの大統領になってしまったのか。

 

バンディ・リー本の中でドナルド・トランプの最初の自伝『The Art of the Deal』(日本語版『トランプ自伝』[ちくま文庫、2008])を執筆したトニー・シュワルツが次のように書いている。

「1985年にトランプタワーで最初に彼のインタビューをしたときから、トランプについての私のイメージは一貫している。それは「ブラックホール」である。何もかもがすぐに消えてしまい、何の痕跡も残らない。持続ということがない。彼の不安定な足場を、いつ、誰が、何が、崩すかはまったくわからない。いつ自分が脅かされていると彼が感じ、対抗策を脅迫的に追及するかもまったくわからない。外面とは裏腹に、ただただ自分が愛されることを希求する、とても傷つきやすい少年を、私はトランプの中に見た。トランプが最も強く求めているのは、自分への無条件の忠誠である。彼は忠誠とはとても移ろいやすいものだと感じている。だからこそ人を強くコントロールしたがるのである。」「私が彼の同意を得て聞いた何百というトランプの電話と、彼と同席した何十ものミーティングで、彼の主張に同意しなかった人物を私は一人も見たことがない。トランプの醸し出す恐怖とパラノイアは、今やホワイトハウスに居を定めている。」(トニー・シュワルツ:同書、p.38-39)

トニー・シュワルツの言は多くの精神医学者たちの診断と完全に一致する。 

トランプもアメリカもわからない!

 

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 アメリカ大統領トランプが日本に来るそうな、そして日本のバカ殿が桝席千五百人分を国費税金で買い上げて相撲観戦させて差し上げるとか、新天皇に会わせて差し上げるとかのニュースに触れてめまいが起きた。このめまいと吐き気は、トランプ自身と、手揉みしながらトランプ教に這いつくばり諂い続ける暗愚の日本国首相の胡乱なツラを思い起こしたからに違いない。

 

ところでワタシはトランプを大統領に選んだアメリカという国がますますわからなくなってきている。喉に魚の骨が刺さっているような感触がずーっと抜けないので、目がかすむようになってから止めていた読書を再開して、天眼鏡を片手にこれまた萎縮が始まったワタシの脳と闘いを始めた。

 

明治・大正・昭和を生きた内村鑑三(1861-1930)《※以下鑑三翁とする》は、言論人として無協会主義を唱えた基督者として知られている。鑑三翁は第一次世界大戦後に次のように記す。軍産国家アメリカの伝道金を拒絶せよとする記事。少し長いが引用する。

 

「嗚呼米国!基督教文明最美の産を以て目せられし米国!人類最後の希望を担ふ国として属望(しょくぼう)されし米国!「曙の子明星よ汝如何にして天より隕(おち)しや」(イザヤ書十四章)、人類の希望を繋ぎし米国は今や大堕落国である、…米国人は其大慈善を以て誇る、彼等は曰ふ「今や米国は白耳義(ベルギー)国を養ひつゝあり」と、実(まこと)に米国人は此戦乱(※注:第一次世界大戦)に於て一千万弗を白耳義に施した、其事は美事である、然し乍ら彼等は今日まで凡そ九億弗の軍需品を交戦国に売った、而して又此戦争を利用して何十百億と云ふ富を作った、斯くて彼等は欧州に於て一人の孤児を養ひつゝある間に数十人の孤児を作りつゝあるのである、…而して余輩の聞く所に由れば軍需品製造に従事しつゝある大会社の株主の多数は基督教会に教籍を有する立派なる基督信者であると云ふ」 (内村鑑三全集23、p.25-26、岩波書店、1982)。(…の部分は本文略)

 

はるか昔からアメリカという国が「軍産国家」の仕組みから抜け出せないことは、この鑑三翁の一文からよくわかる。大戦で砲弾戦車を交戦国に売り飛ばし莫大な収益を上げる一方で、ベルギーに孤児ら救済との名目で救済金を贈与する往時のアメリカを鑑三翁は指弾している。アメリカという国の「宿痾(しゅくあ)」である。片手に美しい花束と微笑み・片手に邪悪な殺戮兵器と武器商人の顔。

 

このことは『アメリカ 暴力の世紀』(ジョン・W.ダワー、田中利幸訳:アメリカ 暴力の世紀.岩波書店、2017)にも詳しい。ダワー氏はこの本の中で、戦争に加担することによって、戦争が長期化すればするほどアメリカの富は増大し続け、国が豊かになり恩恵にあずかってきたという事実を的確な資料を駆使して詳細に記している。

 

この本はトランプが大統領になる前に執筆されたため、ダワー氏は「日本語版序文」でトランプ大統領について触れている。トランプが「アメリカ・ファースト」や「アメリカを再び偉大な国にする」と叫びながらも、彼がアメリカがこれまで防衛してきた価値観、すなわち民主主義、規則に則った世界秩序、国際条約の重要性、人権ならびに市民権の擁護、最適な国際協力の理想といった価値観に全く関心がないことに深い嘆息を吐いている。そして日本を含めてトランプが讃美する「全面領域支配」が今やアメリカの政治文化の遺伝子に深く組み込まれていることを、ダワー氏は深く憂慮している。

 

アメリカ人の自信に満ちあふれた陽気で明るいお人よしの笑顔の影には、アメリカと言う国が背負わされた負の一面があることをワタシは見る。ボブ・ディランの詩の一節”No one is free,even the birds are chained to the sky.”(自由なんてどこにも誰にもないんだ。鳥だって空につながれているじゃないか。)を思い出す。  (この項まだ続くよ!)