KANZOに聴け

内村鑑三翁が生きていたら何を考え何を語るのだろう…

「愛国」を叫ぶ者たちよ!

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戦時中のいわゆる徴用工問題及び慰安婦問題に正面から取り組むことを回避して韓国政府に責任を押し付け、その後韓国をいわゆるホワイト国から除外したことに端を発し、韓国と日本は戦後初めてとも言える最悪の外交関係に陥っている。政府間の批難合戦が繰り返されている。その結果観光客の激減や貿易高の激減が国家間に起きている。アベ政権に諂い媚びる外交評論家がどう解説しようが、ワタシはこの事態はアベ政権の「失政」と捉える。ここまで傷口が広がるとは内閣官邸通産は予測していなかったと言われている。プロの外務省情報に頼らず通産情報に頼った「失政」だろう。

こうした状況下で、奇妙なことに日本の多くのTV新聞週刊誌等はこぞって反韓国キャンペーン一色となり、ここで噴出してきているのが「嫌韓」とも言える発言の大合唱だ。まるで戦前戦中の”愛国讃歌”を聞いているような錯覚に陥る。嫌韓を唱えない者は非国民だと言わんばかりだ。TVでは番組開始前に出演者の前で「嫌韓」発言に反対しないようにディレクターから依頼があるのだとも聞いた。やんぬるかな、である。

2019年参院選ではアベ首相など主要閣僚が弁士で候補者の応援に行くと、演説会場には貸切バスで聴衆が駆け付け旭日旗が掲げられた。その一方で、警察庁からは選挙中の政権批判等の発言者の発言停止・拘束指示が発信され、演説会場ではアベや政権批判の声をあげた者が警察に拘束され発言を停止させられた。警察は戦前戦中の特高警察の如き横暴が目立つ。市民への威嚇である。

また2020年の東京五輪では旭日旗の持込が官邸で了承され外務省が広報するなど珍妙な現象が見られる。一体アベスガ政権の裏側でいかなる密談と取引が行われているかが透けて見えるようだ。

こうした情況の中でアベ内閣官邸及び政権を支持する者たちから湧き上がっているのは、あの日本「愛国」への賛美の歌声である。

 

「愛国」とは何か。ワタシの敬愛する内村鑑三翁の言を引く。

「愛国とは自身金を儲けて国益なりと世に風聴することなり。」(内村鑑三全集9、日本現時の道徳、p.40、岩波書店、1981) 

古き時代の言というなかれ、明治大正昭和の見識・内村翁は、往時の政府国及び軍部によって金言のように叫ばれた「愛国」の本質を見抜いてこのように記した。この本質は今日日の日本の姿にも通底する事柄だ。つまり今でも「愛国」を声高に叫ぶ輩はゼニ儲けのために「愛国」を叫んでいると言ってよい。

「愛国」とは日本でもどこの国でも「泣く子を黙らせる効果」があるのだろうか? 「愛国」を叫ぶ者は真実「国を愛する心と精神」を有しているのだろうか? 反対に政権を批判し国家を代表する政党や政権や大統領や首相を批判・批難する者たちは、「愛国」の心と精神が無いといえるのだろうか?

答えは簡単だ―つまり「愛国」を語る者に「愛国」の心と精神が存在するとは限らないこと、また国の大統領や首相や政権を批判する者たちにこそ「愛国」の心と精神が強く把持されることがある―という”事実”を述べるだけでいいだろう。

真の「愛国」とは、信条思想に関わらず、国の内外の現実を誠実に直視し、国の将来を過たないように計画し、平和を尊び、国民の福利の向上に力を注ぎ、人権意識の拡大に努め、自由が存分に享受できる社会と国を作ろうとする意思に外ならない。これが真の「愛国」だ。

「国家のあらゆる活動の中心には、人間とその不可侵の尊厳があるのです。」ドイツのアンゲラ・メルケル首相の言葉だ。政治家は国民の前で堂々とこのことを宣することができるかどうかだ。こうした政治家が国家を運営すれば、国家は過たないだろう。そのような政治家こそが真の「愛国者」ではないか。

日本はその意味では低劣で思念なき「政治屋」が政権を握って離さず国を支配しており、これら政治屋を到底「愛国者」と呼ぶことはできない。これら政治屋を見てみよ、"我欲"の塊りではないか。

 

アメリトランプ大統領も「アメリカファースト」を叫んで大統領になった。つまり「アメリカ愛国」への讃歌が大合唱となり膨らんでトランプは当選したのだ。ところがどうだろう。トランプは真の「愛国者」なのか? 

ジョン・ダワー『アメリカ・暴力の世紀』(岩波書店、2017)に記されたアメリカ軍産国家の目もくらむ巨額の軍事関連費にぶら下がる数多の富豪事業家たち、トランプが迎合してやまないNRA(全米ライフル協会) などの銃砲産業家たち、中東諸国や北朝鮮と他の国が仲良くしてくれては困る輩たちを見よ。こうした輩は「愛国」を唱えながら実は「我欲」を最優先している。だから「強欲」である。そして自国の利益のみを最優先して行動し、アメリカの利益のためなら、これに抗う国を排斥し続けている。現今国際貿易に起きている昏迷を見よ。国際的な富が急激に滅失し続けているではないか。端的にはアメリカの砲銃やあらゆるタイプの兵器の販路拡大、軍需関連産業の繁栄を心の底から願っている者たちの声が最も先行している。彼らは心底アメリカの将来を真剣に考えている「愛国」の徒なのだろうか?

トランプは「宇宙軍」創設を声高に叫ぶようになった。軍産国家アメリカの宿痾(病気)そのものである。アメリカでは銃乱射による殺人が増加したために銃規制への声も高まり、国内の銃の販路が拡大しなくなってきた。他方世界各国での代理戦争・局地戦も減少している情況にあり、血に飢えた軍需産業界はこぞって付加価値も高い「宇宙戦争」で稼ごうという流れである。つまり軍産国家アメリカの軍需産業は血に飢えているのだ。そこには収益の増大だけが最高の価値なのだ。トランプは「デストピア(暗黒郷、悲劇的社会)」を招来する悪魔のように見える。恐ろしい。

 

そして哀れなことに日本国内閣総理大臣アベスガ官房長官、諸大臣以下そのお仲間となりつつある。トランプに過激に追従するアベや官邸の輩、無能のクセに首相官邸で結婚記者会見をして顰蹙を買った兵卒コイズミJr.などは、何を血迷ってかアメリ諜報機関の先兵となり果て、トランプ「宇宙軍」の創設にわざわざ手を挙げて火中の栗拾いに勤しむ。既に来年度予算に「宇宙軍」参画への費用が計上された。畢竟彼などは日本の将来について何も考えていない、何の思念もない。アメリカに追従するだけの坊やにすぎない。彼は真に日本の将来に責任を持とうとし、この国を愛しているだろうか?  答えは「否」だ。自民党厚労部会長として彼は、世界に冠たる日本の国民皆保険制度を解体しようとしている。その代替部分をアメリカの保険企業に売り渡そうとしている。そんな輩を「愛国」者と呼ぶことは到底できない。だから殊更「愛国」を呪文の如く叫ぶ輩は手前の「ゼニ儲け」のために叫んでいるのだとワタシは断定する。やはり鑑三翁は本質を見抜いていたのだ。

 

もう一人の人間の言葉を聞こう。ドイツナチス政権下でヒトラーに次ぐナンバー2の国家元帥もつとめたH.W.ゲーリングの言葉だ。戦後彼は戦犯として捕えられた。そして戦争犯罪を裁くニュルンベルク裁判で彼は被告として次のように語った。

「反対の声があろうがなかろうが、人々を政治指導者の望むようにするのは簡単です。国民にむかって、われわれは攻撃されかかっているのだと煽り、平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればよいのです。そして国を更なる危険にさらす。このやりかたはどんな国でも有効ですよ。」

ゲーリングのこの言葉は冷徹で真理を突いている。

日本で憲法第九条の平和主義を唱える者に対して、”あなたにはこの美しい国を愛する心が欠けている、昔なら非国民だ”と恫喝しているのは、アベ政権官邸である。卑劣にも党務経験しかなく国政の場では無能を晒し続けたコイズミJr.などからもいずれ発せられる言葉だろう。彼らに日本の政治を委ねていると、間違いなく「デストピア」が出現する。未来の話ではない、今、その予兆をワタシは強く感じている。